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「ワクチンと差別」

「ワクチンと差別」

弁護士 星野 徹

新型コロナウィルス感染症の予防対策の切り札であるワクチンの接種が始まりました。65歳以上の高齢者だけではなく,18歳以上の一般国民へのワクチン接種が始まっています。私もできるだけ早いうちに接種を済ませたいと思っています。

他方で,ワクチンの接種に慎重な方もいます。慎重という以前に,糖尿病などの基礎疾患が重い方や,他のワクチンでアナフィラキシーショックを経験している方など,厚生労働省が接種を忌避するべきとしている方もいます。その結果,国民の中にワクチン接種を済ませた方と,そうではない方が混在する状況になります。問題は,そのことが生む「差別」の問題です。

企業や大学の中には,ワクチン接種を積極的に推奨し,社員の家族や施設の近隣住人にまでワクチン接種のために施設をその会場として提供するものもあります。それは,集団免疫を社会が獲得して,パンデミックを抑える有効な手段であり,積極的に評価されることだと思います。他方で,ワクチンの接種を受けられない人や,受けられるのに受けない人への評価を,殊更に低くする行為(解雇,出勤停止等)が現れており,これが「差別」となります。

差別は,憲法上の,全ての個人が人間として均しく価値を保障されるという「個人の尊厳」原則を歪め,何らかの差異を理由に人格的価値を貶めるもので,その差異が個人の努力によっては変更できない場合(性別,人種,出身,ハンディキャップ等)場合に,最も過酷な結果となります。

そして,なぜそのような差別が起きるかを検証すると,一定の時代の価値観において,何らかの価値の絶対的序列が形成されると,その価値を強く信じた人によって,その価値に反するグループに所属する人への弾圧が起きるという社会構造にあります。

差別に走ってしまう人は,その行いを正義と考え,自分と同じグループに属しない者は排除すべき悪だと考えて行動します。しかし,なぜその価値が正義と言えるのかは,時代や環境によって変化します。そして,「ワクチンを打つことが正しい」という価値も,永遠には続かないのです。

ウィルスは,進化の過程の中で,宿主を殺してしまうほどの強毒性は失う傾向にある,といいます。宿主を死なせるような種類のウィルスは,宿主を失い,結局増えることができないからです。ウィルスの変異株は,感染力を強めながらも,徐々にその毒性を失っていくのが一般的な傾向なのです。

いつの時代においても最も怖いのは,正義の名のもとに「差別」実行する人間であって,現在問題となっている新型コロナウィルスと,切り札とされるワクチンは,その差別を生む一時の踏み絵に過ぎないのです。

プロフィール

星野 徹

星野 徹HOSHINO Toru

  • 弁護士